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2009.10.23 (Fri)

天国、或る男の一生 3

消えそうな夕日、水面にめり込んで消えていきそう。

果てしない砂の海。打ち寄せるのはキラキラする波。

うつぶせの俺に打ち寄せるその波は

幾度となくほっぺたを濡らしては、俺の緊張の糸をほどいて消える。

かすり傷から垂れた黒い血が、渦を巻いてはさらわれる。

寄ってきた小蟹の軍勢が、いそいそと、

いやゆっくりと波に飲まれて去っていく。


小蟹が紅蓮の空と海に去るのを見届けた後、

仰向けになって大粒の涙を流した。

紅葉の空に流れる雲が、涙と幾重にも重なってうまく見えなかった。


恐かった

ただ心臓が熱かった


水面と岩と俺が、今混ざり合わんとしたあの瞬間に

愛も、道徳心も、介してはいなかった。

すさまじい走馬燈と、脳内に展開される映像の上を歩く黒い小蜘蛛の群れ。

その視界の全てが小蜘蛛に制された瞬間から、何も覚えていない。


嗚呼、神は俺を手放さなかったのか。

そう呟きながらも拳で砂を握り、めそめそと泣いてしまう。

授けられた命から、自己という存在から逃げ出してきた。

そこに何も生まれないことは知っていた。


いつも自己嫌悪に舞い狂う悪魔の囁きが響いていた。

そして自分を救うために、自分を殺していた。


つまらなさそうに下を打つ小柄な俺の悪魔。

俺は彼を、青く輝く流星の彼方へ見送った。

ありがとう、君よ。ありがとう。もう帰って良いんだ、君は。



キンモクセイが迎えるボロアパート。

何も言わずに今日も香ってくれた。


ドッと疲れた体から腕をのばし、その手で引いたドアの先、

卓袱台の横に先日消えた女がもじもじとそこにいた。

やはり詰まらぬ顔の女である。

詰まらぬ顔は、俺の機嫌をうかがい、出方に迷う顔してこちらを見る。

その顔はさらに詰まらん。

「う゛ー、ただいま。飯。」

と、何事もなかったかのように俺が畳に寝ぞべると、女は笑う。

笑った顔? ッハ、これも華がない。


畳に大の字で仰向けに転がり、汚い天上を見つめ、ふと思った。

生きていこうと思った。

たとえ隣の女がつまらなくてもいいじゃないか。

貧しくたって良いじゃないか。

ただこの生還が、あの閻魔様の施しならばと思うと、

死んでも生きてやろうと思った。


嗚呼、お母様お父様。僕はずっとここで暮らそうと思います。

授けられた命を全うしようと思います。

たとえ貴方がたが見ていなくても、燃え尽きるまで生きようと思います。



久しぶりに食べた女の飯は、ことさらに不味かった。

それでもいいか。
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